野球の打撃技術において、昨年あたりからチラホラ耳にするようになった「フライングエルボー」。
MLBから輸入されたと思われる言葉ですが、同じくMLBから輸入され、打球角度の重要性が周知されるようになった「フライレボリューション(通称:フラレボ)」とセットで語られることあります。
そんな「フライングエルボー」ですが、意味や仕組みを正確に理解している人は少ないと思います。意味や仕組みを理解しなくても、できる人はできてしまいますが、それでは再現性が低くなり、また技術の引き出しを増やすことができません。
よって本記事は「フライングエルボー」の意味や仕組みを説明することで、理解し、自分の引き出しを増やして頂くことを目的に作成しています。
次項より、それぞれの項目に分け説明します。
→あわせて読みたい:最強打撃理論?シンクロ・ツイスト・うねり打法とフライボール革命を解説
フライングエルボーとは
まずフライングエルボーという言葉は以前からあり、主にゴルフ用語として用いられていました(各検索エンジンに「フライングエルボー」と入れるとゴルフ関連のサイトしかヒットしません)。
意味としてはテイクバック時に軸足側の肘を上げる(体から離す)ことになります。
ただしゴルフでは大振りを誘発してしまい、ショットの精度を下げることから「NGな動き」とされています。
野球においても意味としては同様で、テイクバック時に軸足側の肘を上げる(捕手側の肘を引くというより上げる)動作を意味します。
しかし肘を体から離しただけでは大振りになってしまい、打撃の精度が低くなってしまいます。
スイングの基本は「インサイドアウト」ですが、肘を体から離したままスイングすると「アウトサイドイン」になります。
つまり、スイングする際は肘を畳み、コンパクトなスイングをする必要があります。
よってフライングエルボーはテイクバックの肘の位置も重要ですが、始動後に肘を畳むことも重要といえます。
肘の位置だけを考えてトライするのではなく、大振りに気を付けつつ、次に紹介するメリットとともに「目的」をしっかり意識してトライすることが重要です。
フライングエルボーのメリット
テイクバック時に肘を上げるメリットは下記の通りです。
①肘を畳む動作でスイングスピードを早くできる
肘を上げてテイクバックを取った場合と肘を上げないでテイクバックを取った場合では、スイング始動時のバットの助走距離が大きく違います。
肘を畳む動作でバットを加速させることができるため、結果的にスイングスピードが早くなります。
②バットのグリップを体の近くに通しやすい
肘を上げた構えは大振りとなりやすいことは前項で説明しました。
しかし、フライングエルボーはテイクバックの肘の位置と肘を畳む動作がセットです。
肘を畳む動作を意識することで、グリップを先に出しやすくなり、結果的にコンパクトなスイングをしやすいと言うことができます。
③テイクバックを大きくでき、安定させやすい
肘を上げることで肩甲骨を動かすことができます。
肩甲骨が動く分だけテイクバックを大きくできます。
また肩甲骨を使うことで、テイクバックの安定(土台がしっかり)化に繋がります。
肘上げ下げ(バットのヘッドを前後)をしながらテイクバックを取ると、その差異が分かりやすいと考えます。
以上がフライングエルボーのメリットだと考えます。
次に身に着けるコツについて解説します。
身につけるためのコツ
前項までで「肘を上げること」と「肘を畳むこと」が重要と説明しましたが、本項では具体的なコツと方法を説明したいと思います。
まず、身につけるにあたり意識することは「リラックスすること」です。
リラックスするためには「体に無理な動きをしない(余計な力をいれない)」ことが重要です。
肘を上げる動作は、意識が強すぎると体に余計な力が入りがちです。
力が入ったままスイングを始動すると大振りとなります。
またバットが走らずスイングも遅くなります。
よって、あくまで自分の体に無理のない範囲で肘を上げることが重要です。
また、捕手側の肘を上げるにあたっては、投手側の腕の使い方も重要です。
投手側の腕が伸びていては、捕手側の肘を上げるのが窮屈になります。
そのため、投手側の肘を少し曲げておく必要があります。
その際、投手側の肩は少し下がっても良いと考えます。
従来テイクバック時の肩は水平が良いとされていますが、テイクバックの取り易さの方が優先度は高いと考えます。
日本人打者はテイクバック時に比較的肩が水平であることが多いですが、MLBの打者では投手側の肩が下がるケースも見受けられます。
次の身につけるにあたって有効な方法ですが、「フライングエルボーをしている選手の動きを観察する・真似する」というのがあります。
MLBでは多くの選手が取り入れていますが、代表的かつ有名なところでは選手としてはバリー・ボンズ選手、マイク・トラウト選手等が上げられます。
それら選手のフォームを一度真似してみると良いと思います。
動きのコピーは、それ自体も勉強になりますが、各動作(構え・テイクバック・スイング)に分解して分析することで、フライングエルボーの動きがより分かりやすくなります。
筆者のオススメはニューヨーク・ヤンキース等で活躍したゲイリー・シェフィールド選手です。
シェフィールド選手の真似をすると、リラックスと「肘を上げる動作」の感触を掴みやすいと思います。
力感無く、肘を上げるためには投手側の腕の使い方も重要です。
その点も、シェフィールド選手の動きは参考になると思います。
その際、「選手の名前 動画」や「選手の名前 連続写真」と検索すると参考になるかも知れません。
また自分と左右が違う選手でも、写真や動画を左右反転することで発見もあると思います。是非トライしてみてください。
代表的な選手
代表的な選手として、筆者の独断と偏見で右・左バッターの日本人現役選手を2人紹介したいと思います。
◆坂本勇人(東京読売ジャイアンツ)
つい最近まで打撃三冠王であり、現在でも打撃三冠の全てでTOP3にいる、右バッターとして日本最高峰の技術を持つ坂本選手もフライングエルボーを使用しています。
テイクバック時に捕手側の肘を大きく引いて上げていることは分かると思いますが、坂本選手の特徴はそれだけではありません。
坂本選手はインコースの捌き方に定評があります。
これは右肘の「抜き」が上手いことに起因していますが、肘を抜くには、肘を畳むことが重要です。
大きく引いて上げた肘を、綺麗に畳んでスイングできることが坂本選手の特徴です。
インコースをきれいに捌けるコンパクトなスイングで高い打率を残しつつ、球界最高レベルの長打力を有する坂本選手ですが、
その秘訣はフライングエルボーにあるのかもしれません。
◆大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)
二刀流の大谷選手は日本では2016年に22本塁打、MLBでは2018年に22本塁打をマーク。
打者専念の2019年シーズンは序盤は出遅れましたが、5月27日現在では2本塁打を放っています。
その長打力は疑う余地もありませんが、どうしても193cm・97kgと日本人離れしている体格に注目が行きがちです。
しかし大谷選手のバッティングフォームに注目すると、フライングエルボーを使っていることが分かります。
大きなテイクバックが特徴ですが、捕手側の肘は高く上がっており、左の脇が大きく開いています。
また大きなテイクバックを取るために、投手側の腕がリラックスできており、投手側の肩が若干下がっています。
そのあたりが特徴と考えますので、分析する際は、是非参考にして見てください。
まとめ
本記事は「フライングエルボー」について説明させて頂きました。
冒頭で「意味や仕組み」の重要性について説明しましたが、実際のところ「肘が肩から何cm以上上がったら」のような明確な定義は存在しないと考えますので、あまり難しく考えすぎない方が良いと考えます。
ただしメリットは間違いなくありますので、是非トライしてみてください。
最後に「フライングエルボー」についてまとめると下記になります。
・捕手側の肘を上げる(肘を後方に引くよりも上方向に上げるイメージ)
・上げた肘は始動時に畳む(コンパクト、かつバットの加速を意識)
上記を念頭に、無理のない範囲で自分のフォームに落とし込めれば良いと思います。
この記事が「フライングエルボー」への理解の一助となれば幸いです。